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第3節 単細胞生物と多細胞生物
A 単細胞生物
B 多細胞生物
◆細胞群体から多細胞生物へ
単細胞が集合して,お互いが接着して生活をしている場合,細胞群体という。
緑藻のクラミドモナスは2本のべん毛をもった単細胞生物であるが,条件によっ
ては,分裂して生じた細胞が分離せずに群体をつくることがある。しかし,条件が
よくなると離れて単細胞生活をする。パンドリナは,クラミドモナスと似た細胞が
16個集まって群体をつくり,丸い球のような形で水中に浮遊する。
ボルボックスは,やはり2本のべん毛をもった細胞が数百個から数万個集まって
一つの球形の群体をつくっている。この群体はパンドリナと違い,群体内の細胞に
分化が生じている。生殖細胞と,光合成をする栄養細胞である。まさに,多細胞生
物の原形である。

◆細胞性粘菌の特徴
細胞性粘菌は,生物Iでは「細胞の分化」に深入りできないので,単細胞と多細
胞の2つの生活環をもつ生物として紹介されている。しかし,研究上は,「細胞の
分化」を中心にして,世界各地の研究室で広く培養されている材料である。
細胞性粘菌はいろいろな特徴をもつ。まず,「細胞性」と名づけられたのは,一
生の間,細胞構造が持続されるためである。これに対して,原形質流動の観察材料
などとして用いられる真性粘菌は,変形体という細胞構造をもたない時期がある。
なお,ともに粘菌という名がついているが,両者の系統上の関係は,はっきりせず,
互いの類縁関係はないと考える人が多い。ほかにも,次にあげる特徴がある。
(1) 成長の時期と分化の時期が分かれていること
細胞性粘菌の成長期は,胞子が発芽して生じたアメーバの時期のみであり,それ
が細菌などを捕食してふえ,餌がなくなった時期から「分化」が始まる。よく発生
や分化の研究に用いられる動物の受精卵や胚では,成長しながら分化していく。そ
の点で,この材料は「分化」の研究に有利である。
(2) 胞子と柄しか分化しない。
多細胞動物の場合,発生にともなって,多種多様な細胞や組織に分化するが,細
胞性粘菌の場合は,分化は柄になるか,胞子になるか,二者択一である。多細胞の
移動体で,先端の部分が柄になり,後部が胞子になることもわかっている。このよ
うに,分化が簡単な点も,研究上有利である。
(3) 生涯を通じて半数体である。
真性粘菌の場合,胞子から発芽したアメーバに原始的な性の区別があり,接合し,
接合子が融合して,変形体を形成する。したがって,真性粘菌ではnの時期と,2 n
の時期の両方がある。多くの他の生物も同様である。しかし,細胞性粘菌は,半数
体(n)のアメーバが単に集合するだけで,特別な場合を除いて接合せず,一生nのま
まである。それで,アメーバなどに突然変異が生じたとき,それがそのまま形質と
して表現される。一方,接合して2 nの時期をもつ生物では,一方の突然変異形質
がかくれてしまうことが多い。こうした点も,細胞性粘菌が有利である。
(4) 培養しやすい。
細胞性粘菌は,大腸菌やエアロバクターなどを餌にして,ペトリ皿(シャーレ)など
の上で簡単に培養できる。
そのほかにも,研究材料として都合のよいいくつかの性質をもつので,この材料は
広く用いられるようになった。なお,「分化」以外にもおもしろいことが見つかって
いる。アメーバが飢餓状態になると,集合を始める。その集合のきっかけとなるのは,
細胞が出す環状アデニール酸(cAMP)とよばれる物質である。cAMPは動物においては,
ペプチドホルモンの働きを仲介することなどで知られている。さらに興味深いのは,
cAMPを分泌するだけでなく,一度分泌してから次にそれを分解する酵素を出すこと
である。このことは,一見むだのように見えるが,もしcAMPを出しっ放しにすれば,
しだいにその濃度が高くなり,まわりのアメーバを走化性で引きつける能率が悪くす
る。それで,一度分泌してまわりのアメーバを集合させ,すぐに酵素でその情報を消
し,さらに改めて次の分泌をして引き寄せていると考えられる。
このように,細胞性粘菌には,驚くべき「知恵」のようなものが備わっている。
なお,細胞性粘菌はそれほど珍しいものではなく,都会の片隅に残された公園や林
の落ち葉などから見つかることも少なくない。
◆多細胞生物(ヒドラ)の体をつくる細胞
胚葉をもつ動物中,もっとも単純な体のつくりをもつものが刺胞動物である。刺胞
動物は二胚葉性であり,中胚葉を欠く。内胚葉と外胚葉の2層の上皮細胞で体の外面
と内面が覆われており,内胚葉と外胚葉の間には,非細胞性の中膠(メソグレア)があ
る。
学校でも容易に飼え,なじみ深いものがヒドラであろう。ヒドラは刺胞動物ヒドロ
虫綱に属し,刺胞動物中,もっとも単純な体制をもつものの一つである。ヒドラの体
は約10万個の細胞からできているが,細胞の種類は少なく,6種類しかない(ヒトの
場合は,体が約60兆個の細胞でできており,200種類以上の細胞があると言われてい
る)。6種とは,@上皮筋細胞(上皮細胞であるが,収縮性の繊維をもち,筋細胞とし
ても働く),A消化細胞(内胚葉の上皮筋細胞),B神経細胞(感覚細胞を含む),C刺胞
細胞(刺胞動物特有の細胞で,毒針を発射したりする)D腺細胞(内胚葉にあり消化液を
分泌する),E未分化な細胞,である。この他に,有性状態になった際には,卵や精
子ができる。
われわれの場合は筋細胞と上皮細胞とは分かれているが,刺胞動物では,体の外表
面や内面を覆っている上皮細胞に収縮性の繊維が含まれており,上皮細胞が収縮する。
このような細胞を上皮筋細胞と呼ぶ。外胚葉の上皮筋細胞の繊維は体の長軸方向に走
っており,縦走筋の役割をはたす。一方,内胚葉の繊維は周方向に走っており,環状
筋として働く。
細胞系列は3種に分けられる。外胚葉上皮細胞系列(上皮筋細胞),内胚葉上皮細胞
系列(消化細胞),間細胞系列(多分化能幹細胞である間細胞と,それが分化した神経細
胞・刺胞細胞・腺細胞・卵・精子)である。


