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第4節 神経系
◆神経系の進化
イソギンチャクには,下図のような感覚細胞と作動体(筋肉様の収縮性の細胞)
との直接連絡が見られる。

刺胞動物に見られるシナプスは不完全で,細胞と細胞とが実質的に連絡してい
るもの,伝達に方向性のないものとあるものなどが見られる。イソギンチャクの
一種では,4〜20もの“シナプス”を経由する0.5cm/秒ぐらいの伝達と,長い軸索
による1〜2m/秒の伝達とが知られている。
散在神経系では,刺激による興奮は直接関係のないニューロンにまで拡散的に
伝わり,無意味なシナプスがふえて伝達時間が長くかかる。
中枢神経系をもつ動物では,受容体→中枢→作動体と直接的に興奮が伝えられ,
中枢では情報が処理され,真に必要な作動体だけに伝えられる。無意味なシナプ
スの数も少なくなっており,伝達に要する時間が短くなっている。
A 神経系の種類
◆脊椎動物の中枢神経系
魚類・両生類・は虫類・鳥類・ほ乳類の順に,大脳が発達してきている。ほ
乳類では中脳・間脳が大脳によって包まれ,外部からは見えなくなっている。大
脳の表面にしわが見られるのはほ乳類だけである。魚類・鳥類の中脳・小脳が比
較的発達しているのは,水中・空中での姿勢の保持に関連がある。また,両生類
では,反射の実験として“脊髄ガエル”のような実験が可能であるが,ほ乳類の
イヌやネコではそれができない。それは,神経に関していえば,イヌやネコはカ
エルに比べて神経系の集中化が進み,脊髄だけでは筋肉の働きをまとめることが
できなくなっているためと考えられる。
ほ乳類の大脳での外側から見える部分は新皮質で,組織的には6層に区別され
る。6層にならない部分を原皮質や古皮質といい,発生的には新皮質より髄鞘化が
早い。原皮質・古皮質は,は虫類などでは大脳の表面にあるが,ほ乳類では新皮
質に包みこまれている。この部分の機能は,本能的・情動的行動に関係している。

◆自律神経系
呼吸・循環・消化など,植物性機能に関係している神経を自律神経系という。
自律神経系は,大脳皮質の直接的支配を受けずに独自の働きをしている。自律神
経が支配するものは,毛髪の根,血管壁,気管支・胃腸のように管状や袋状の内
臓の壁と,だ液腺・すい臓・肝臓などの腺構造の器官である。これらの器官は,
反射的(無意識的)に調整されている。自律神経は遠心性神経で,脳および脊髄の胸
部・腰部・仙部などから出ている。これらの神経突起は,脳・脊髄を出てから,
途中で必ずニューロンをとりかえて目的の臓器にいく。
自律神経には,拮抗的に作用する2つの神経系,すなわち交感神経
(sympathetic nerve)と副交感神経(parasympathetic nerve)がある。交感神経は脊
髄の胸腰部から出て,脊髄の両側にじゅず状に連なっている神経節を経て各臓器
に分布している。他方,副交感神経は,脳から出ている動眼神経・顔面神経・舌(ぜ
つ)咽(いん)神経・迷走神経の中に含まれており,それと脊髄の仙部から出ている
仙髄神経からなっており,交感神経と違って神経節は内臓に接近して存在するか,
または内臓内にある。
B ヒトの脳と脊髄
◆大脳
下位神経系の統合という面から,中枢神経系は,@脳幹脊髄系A大脳辺縁系B
新皮質系の3つに区別される。ヒトでは新皮質が発達し.4葉に区別される。特
に発達が目だつのは,前頭葉(41%)である。前頭葉を除いても,知能や記憶の能力
にはほとんど障害はみられない。しかし,積極的な意欲を失い,計画性を欠くよ
うになるので,創造・企画などに関係する機能がここに存在すると考えられる。
つまり,新皮質の後半部にインプットされた諸情報が処理・統合されて,頭頂葉
から具体的な行動としてアウトプットされると考えられる。古代人類や乳幼児で
は,前頭葉の発達が悪い。ニューロンどうしのからみあいや軸索の髄鞘化は,脳
幹部,古皮質・原皮質で早く起こり,新皮質で遅く起こる。新皮質でも高次の精
神活動の座とされる連合領 (特に前・側頭葉)で遅く起こる。
脳の神経細胞の数は約140億とされ,生後その数はふえない。もし,なんらか
の原因でこわれても再生しない。したがって,誕生後の脳重量の増加は,髄鞘の
増加やグリア細胞の増加による。
成人の脳は日本人の男子が1,350〜1,400g,女子は1,200〜1,250gほどである。
側頭葉ないしその深部の海馬領域が,記憶,特に最近のできごとの記銘と再生に
関係していることは,臨床上および実験的裏づけがある。
a 側頭葉の一部を刺激すると,最近の記憶の再生が起こる(Penfield,1952年)。
b コルサコフ症状(古い記憶は正常で,注意力や推理力,知能指数も変わらない
のに新しいできごとの記銘と再生ができない)は,海馬領域の欠陥と関係が深い。
c 海馬領域を両側切除すると,新しい記銘ができなくなる。

◆大脳半球における機能分化
1981年度ノーベル医学・生理学賞受賞のR.Sperryは,右脳と左脳をつなぐ脳
梁を手術で切断された患者の了解を得て,右脳・左脳の働きの違いを調べ,図の
ように左右は形,大きさでは対称であるが,その機能ははっきり分化しているこ
とを明らかにした。

このような患者を対象とした観察について,スペリーは次のように報告してい
る。「……手術から覚めると彼は割れるような頭痛を訴え,またウトウ卜した状態
で早口ことば“Peter Piper picked a peck of prikled peppers”をくり返すことが
できた。しかし,次のような注目すべき変化がみられた。体の左側はごくまれに
しか自発的行動を示さなかった」「患者の右手の中に物をおくと,見ないでもそれ
がどういうものか説明できた。しかし,左手の中において同様に説明を求めたが,
物はわかっていながら言葉ではいい現すことができなかった。しかし,左手の中
にあるものの形や大きさなどは認識していることは,いろいろの形や大きさのよ
せ集めたものの中から,左手中にあったものと同じものを選び出すことができた」
このようにして,左手の感覚神経がはいる右脳は「物の形を認識し,立体感覚
を司る」ことに関与しているのが明らかとなり,逆に左脳で「話すこと」が司ら
れているという結論が得られる。このような観察や実験は,その後電気ショック
を与えて調査研究するようにして進められたが,図に示すような機能分化は確か
なものとなった。なお,生まれつき左利きの人の場合,その大脳半球の機能分化
が左右逆となっている例も知られている。
日本人の脳の機能は西欧人と若干の違いがあり,これが日本文化の特異性とも
関連するという報告(1970)がある。たとえば,邦楽は左脳,洋楽は右脳で日本人
は鑑賞することを実験で見い出したという。しかし,アメリカ人の脳研究グルー
プが調べたところそうした結論は得られなかった。これは実験方法の違いもある
ことから,いずれの主張が正しいかは,まだ決着がついていない。
◆脊 髄
脊髄は節状の構造をなし,H字状の灰白質が中心にあり,白質がこれを取りま
いている。中心管は脳室に連絡している。31個の節の左右から1対の脊髄神経が
出ているが,根もとでは前根 (腹根),後根(背根)に分かれている。
前根は運動性,後根は感覚性のそれぞれの神経が通っている。
その働きとしては,反射運動の中枢 軸索の連絡路または中継所があげられる。
膝(しつ)蓋(がい)腱(けん)反射や屈筋と伸筋の拮抗反射の中枢がここにある。

C 反射
◆反射弓
ある反射が起こる時に関わっている神経経路を反射弓とよぶ。つまり,受容器の
興奮が求心性神経(感覚神経)を通って反射中枢に達し,折り返し遠心性神経(運動神
経)を通って効果器に達するという,反射の全行程が反射弓である。反射弓におい
てはニューロンが直列につながっている。
もっとも単純な反射弓では,膝蓋腱反射のように,1個の感覚神経と1個の運動
神経とが脊髄中で直接接して反射弓がなりたっている。つまり2個のニューロンし
か関与していない。
膝蓋腱反射は,大腿四頭筋の腱をたたくことによって起こる。 足が前に出るの
は下腿を伸展させる大腿四頭筋が収縮しているためである。腱を叩くと腱が引き伸
ばされ,それにともない大腿四頭筋も伸ばされて,結局,筋中の筋紡錘が引き伸ば
されて刺激が生じ,刺激はグループIa繊維(感覚神経)を通って脊髄に入る。グル
ープIa繊維は,その筋を支配する前角細胞(運動神経)とシナプス結合しており,
刺激が前角細胞を興奮させ,興奮は前角細胞の軸索を伝わって,大腿四頭筋に収縮
を起こさせる。
膝蓋腱反射の場合は,反射弓は2個のニューロンでできているが,屈筋反射で
は,脊髄中に存在する介在神経が,感覚神経と運動神経との間をつないでいるため,
計3個以上のニューロンが関与している。このように,反射弓では1個〜数個の介
在神経が関わるものが多い。
◆神経連絡路の左右交さ
大脳半球と体の左右との結びつきは,左右逆になっている。その交さの起こる
場所は,延髄(下図@AC)と,脊髄に入るレベル(下図B)である。@はけい部以下
の筋肉の場合,Aは頭の筋肉にいく場合の経路を示す(ともに延髄錐体を経由する
ため,ともに錐体路系とよばれる)。Bは皮膚の痛覚・冷覚・温覚・触覚の一部が
伝わる感覚神経路である。Cは残りの触覚と筋紡錘からの神経連絡路である。

したがって,上図でAを切断すると反対側の感覚障害・運動障害が起こる。ま
た,Bを切断すると切断部以下における,切断した側と同側の運動・触覚・筋紡
錘障害と,反対側の痛覚・冷覚・温覚・触覚(一部)障害が起こる。

