第4節 窒素の同化
A 植物の窒素同化
◆植物が利用できる窒素源
植物が窒素同化作用の材料として利用できる窒素源は,無機窒素化合物と分子状
窒素(N2)の2群になる。自然界にもっとも多い窒素源は,空気の4/5を占めている
N2であるが,これを利用できる植物はきわめて少ない。大部分の植物は,土壌中の
アンモニウム(NH4+)塩,硝酸(NO3−)塩などの無機窒素化合物を利用する。
高等植物では,一般にNO3−がよく利用されるが,土壌のpHが変化すると,NH4+
がよく利用される。土壌中のNH4+は,動植物の遺体や排出物の分解によってもた
らされ,NH4+はさらに硝化菌の働きによって,NO2−からNO3−に変えられる。
すべての生物の有機窒素化合物の母体はアミノ酸である。アミノ酸のアミノ基
(-NH2)はNH4+からつくられる。したがって,N2またはNO3−からNH4+を生じてはじめ
て,これらの無機窒素化合物は利用されるわけである。
◆窒素同化作用
根から吸収された窒素源がNH4+の場合は,直ちにアミノ酸合成に利用されるが,
NO3−の場合は,硝化作用とは逆の反応が起こって,NH4+に変えられてから利用され
る。一方,アミノ酸の素材になる有機酸は,呼吸の解糖系やクエン酸回路で生じる
ピルビン酸,α-ケトグルタル酸,オキサロ酢酸などである。

NH4+は,グルタミン合成酵素の働きで,アミノ酸の1つであるグルタミン酸と結合
してグルタミンに同化される。次に,グルタミン酸,アスパラギン酸などのアミノ
酸ができる。
B 窒素固定
◆窒素固定
空中窒素の固定は,人工的には,N2とH2を化合させてNH3にするハーバー法と,
カルシウムカーバイドとN2を化合させて,カルシウムシアナミドCaCN2とし,その
後NH3にするカルシウムシアナミド法がある。一方,天然においても雷の放電や紫
外線の光化学作用によって,N2はO2と化合して,各種の窒素化合物(NOやNO2など)
となり,これが雨水によって硝酸(HNO3)となる。以上のほかに,生物的窒素固定が
あり,この結果生成する窒素化合物は,地球上の土地を肥沃にする。この窒素固定
の働きをもつ生物は,次にあげる微生物に限られている。
(1) 根粒菌 高等植物と共生する窒素固定菌としてもっとも代表的なものは,マメ
科植物の根に共生する根粒菌で,そのほか,グミやハンノキなどの根に共生する放
線菌も知られている。マメ科植物は野外や校庭に多いから,授業前に掘り取って水
洗し,根粒を生徒に見せるとよい。根粒の形は,種類によって形態を異にしている。
さらに,根粒の薄片をつくり,組織内の細胞を高倍率で観察させてもよい。根粒菌
は,試験管培地上に分離培養できるが,その状態では,空中窒素の固定を行わない。
根粒内においてのみ,窒素固定が可能である。
(2) クロストリジウムとアゾトバクター 根粒菌と同じく土壌中の細菌である
が,共生はしない。有機化合物を分解して得られるエネルギーを利用して,空中窒
素を還元し,窒素化合物を合成している。クロストリジウムは嫌気性であるが,ア
ゾトバクターは好気性のため酸素を多量に吸収し,窒素固定力が大きい。
(3) ラン藻 インド地方で無肥料でイネの水田栽培をするとき,ラン藻が生育する
と米の収穫が多くなることが知られる。これにヒントを得てラン藻を純粋培養して
調べた結果,空中窒素固定の働きがあることがわかった。ラン藻の中でよく知られ
ているものに,ネンジュモがある。
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光合成の研究史 |
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光合成研究の歴史は,植物の栄養に関する研究で始まった。1648年にヘルモントは5ポンドの重さのヤナギの苗木を,200ポンドの土を入れた鉢に植え5年間,水だけで育てた。5年後にヤナギは164ポンド3オンスに生長したが,土の目方はわずか2オンス減少しただけであった。この結果からヘルモントは植物体はすべて水に由来すると考えた。この結論は半分しか正しくなかったが,植物の生育要因として水分を考えたことは評価される。 植物が酸素を発生することを観察したのはプリーストリ(1771年)で,これを追試し,この現象が日光の当たった緑色の葉や茎でのみ行われることを確かめたのが,インへンホウス(1779年)であった。 光合成におけるCO2の重要性を明らかにしたのはセネビア(1782年)とソシウル(1804年)で,後者は植物体がCO2とH2Oとから形成されることを実験的に証明した。これに対して植物栄養学者として有名なリービッヒが,植物は土中の腐植土から有機態の炭素を吸収し,植物体を作ると反論した。しかし,1857年に水耕法が確立され,CO2が植物体の有機物のもとであることが確定された。 葉の緑色色素にクロロフィルという名称が与えられ(ペルチェ,1817年),光合成に関与していることが認められた(ディトロシェ,1837年)。 一方,光合成の産物については,1864年に,ブッサンゴルとザックスによって炭水化物,とくにデンプンであることが確認された。ザックスは光合成が緑色の細胞のなかの葉緑体で行われることを明らかにした。エンゲルマン(1883年)も,運動性のある好気性細菌をO2発生の検出に用いることで,葉緑体が光合成の行われる場であり,光合成には赤色光が有効であることを証明した。 1900年以前には,光合成速度に対して,CO2濃度・光の強さ・温度などの要因はそれぞれ独立に働き,どれか1つの要因で限定されることはないと考えられていた。しかし,1905年にブラックマンは,光合成の諸要因の相互作用を詳しく調べ,光合成速度は諸要因のうちで最も条件の悪い要因(限定要因)により限定される,という限定要因説を提唱した。そして光合成過程は単純なものではなく,光を必要としない反応段階も含まれていると主張した。これを実験的に裏付けたのがワールブルク(1919年)で,自分で改良した検圧計と,新しい実験材料であるクロレラを用いて定量的な実験法を開発した。そして光合成の反応過程は,光を必要とする明反応(1ight
reaction)と,直接には光の関与しない暗反応(dark
reaction)を含む複雑な反応系であることを示した。 |
1648 ヘルモント 植物の生長のなかでの水の重要性 1771 プリーストリ 植物の酸素の放出 1779 インへンホウス 日光の当たった緑葉が酸素を 放出 1782 セネビア 1804 ソシウル CO2とH2Oから植物体の形成 1837 ディトロシェ クロロフィルの働き 1864 ブッサンゴル ザックス 光合成産物としてのデンプ ン 光合成の場である葉緑体 1883 エンゲルマン 赤色光の有効性 1905 ブラックマン 限定要因説→暗反応の存在 1919 ワールブルク 明反応と暗反応の存在 1931 ファン=ニール 水の分解でO2の発生 1939 ヒル ヒル反応→O2の発生と還元 物質(AH2)の生成 1954 カルビン,ベンソン CO2還元経路の発見(カルビ ン・ベンソン回路の確立) 1966 コーチャック,ハッチ C4-ジカルボン酸回路の発見 |
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1931年にファン=ニールは光合成細菌が酸素を放出しないで光合成をすることから,緑色植物でも光合成細菌でも,光の働きはCO2を分解してO2を放出することではなく,水(または水素供与体)を分解し,生じた水素を用いてCO2を還元することであると考えた。これは1939年の葉緑体を用いたヒルの実験で支持された。CO2のない状態で葉緑体に光を照射してもO2は放出しないが,適当な水素の受容体(彼の実験ではシュウ酸鉄(II))を与えておくと,
O2の放出が見られ,与えたシュウ酸鉄(II)は還元された。この反応(ヒル反応と呼ばれるようになった)は,水分子からのO2の発生と,還元物質(AH2)の生成という,光合成の明反応段階を中心とする反応系をあらわすものと考えられた。またルーベンは酸素の同位元素18Oを多く含む水と,普通の酸素16Oだけを含む水とを用いてヒル反応を調べ,発生してくるO2の同位元素組成が与えられた水のそれとまったく一致していることを見た。このことから,ヒル反応で発生したO2は水分子に由来することが確認された。 CO2が取り入れられどのような化合物に変化するかについては,初期にはバイエルのホルムアルデヒド仮説(1870年)にもとづいて,光合成の初期産物と考えられるホルムアルデヒドを緑葉中に証明しようとする実験が多く行われた。しかし,この仮説はラジオアイソトープを用いた実験により完全に否定された。炭素の放射性同位元素を標識原子(ラベル)として用いることで,炭素回路系の研究は飛躍的に前進した。最初は11Cが用いられていたが,1940年ごろから半減期の長い14Cが用いられるようになり,研究が容易になった。カルビンやベンソンらは緑藻の懸濁液に14CO2を与えて一定時間光合成を行わせた後に,急激に反応を停止させた。緑藻から光合成産物を抽出し,これをペーパークロマトグラフィーにかけた後で,ラジオオートグラムにとって,14Cを含む光合成産物を同定した。これによって最初の光合成産物がホスホグリセリン酸(PGA)であり,つぎつぎに糖リン酸化合物の生成することが明らかになり,1954年にカルビン・ベンソン回路が明らかにされた。 カルビン,ベンソンらによって示されたCO2還元経路は,全部の植物に共通するものと考えられていたが,コーチャック,ハッチらはサトウキビの光合成の初期産物がリンゴ酸,アスパラギン酸などC4化合物であることを発見した。彼らはサトウキビ,トウモロコシ,キビなどの熱帯性植物はカルビン.ベンソン回路とは異なる新しいCO2固定経路をもつことを明らかにした(1966年)。 |
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