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第6節 動物の分類と系統
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A 動物の身体のつくり ◆動物の体型 動物の外形はさまざまであるが,それらを整理するには,立体幾何学的なとり扱い,つまり図形を貫く軸(主軸や副軸)を設定したり,断面を設けたりして,その軸や面についての相称性を問題にするやり方がなされる。 1.無軸型……点相称も面相称もみられないもの。代表はアメーバで,不定形ともいう。 2.均軸型……全面相称型ともいい,相称軸や面が多数,あるいは無数に存在する型。簡単にいえば球形で,原生動物のタイヨウチュウなどがその例。ほとんどの動物の卵細胞もこれである。 3.単軸型……1本の主軸があり,これを含む相称面が1つあるいは多数存在する形。相称面の数によって,さらに放射相称型,二放射相称型,左右相称型に分けられる。 ・放射相称型は,3つ以上の相称面をもつもの。ヒトデ・クラゲなどの刺胞動物や,ウニ・ヒトデなどのきょく皮動物。 ・二放射相称型は,2つの相称面,すなわち2本の副軸をもつ型で,サンゴ虫類やクシクラゲ類。 ・左右相称型は,両軸相称型ともいわれ,ただ1つの相称面をもつ型で,この相称面を正中面という。この型は,重力場における前進運動に適した型といわれ,水中・陸上・空中で生活する多くの動物で見られる典型的な形である。 動物の中には,前後の軸に沿って,相同な立体的な構造単位がくり返されているものがあり,この単位を体節という。環形動物や節足動物でよくみられ,脊つい動物では,発生の初期に,中胚葉で体節構造が最もはっきりしている。成体でも,脊ついなどで,体節構造が見られる。
B 動物界の仲間 原生動物 「波打際の砂の間には,Trachelocercaなど,細長い体形で,刺激を与えるときゅっと体を縮め,しばらくするとまた体を伸ばして砂の間をすりぬけるように動きだす特徴的なせん毛虫類がいる。海産せん毛虫類は80種以上記載されている(フェンチェル,1969)。原生動物は単細胞からなり,細胞内に各種の細胞小器官があって,運動,食物摂取,浸透圧調節などの働きが分化している。いくつかのグループに分類され,分類学的に多系統的な動物群と考えられている。 海綿動物 磯の岩にだいだい色や黒,うす紫色など色とりどりのかたまりがついているのを見ることがある。これは,ダイダイイソカイメン,ムラサキカイメンなどという海綿の仲間である。この仲間は,水生,固着性で,食物をこしとって食べる動物群である。下図のように一部の細胞がもつべん毛によって体内に水流をおこし,この水から食物となる有機物質の小粒をこしとっている。海綿の体の構造は原生動物あるいは藻類の群体の統合によってできたものと考えられている。
刺胞動物 潮間帯では,貝殻などを表面にくっつけたヨロイイソギンチャクやウメボシのような色をしたウメボシイソギンチャク,もえぎ色のミドリイソギンチャクなどをよくみかける。その他,小さなイソギンチャクのようなものが集まって,枝分かれした木の枝のような形になったヒドロ虫類,サンゴ礁をつくる石サンゴ類もこの仲間である。 C 旧口動物の仲間 扁形(へんけい)動物 磯の転石をおこしてみると,石の裏を,紙のように薄いぺらぺらした生きものが,すーっとすべるように動くのをみかける。1〜2cm位の細長い灰色の生きものはウスヒラムシ,5cm位で幅が広く,こげ茶色で,前の方に2本の短い触角のあるのが,ツノヒラムシである。どちらも,扁形動物のウズムシ類である。この仲間は,海以外にも生活している。再生実験などによく用いられるナミウズムシ(プラナリア)も扁形動物である。 袋形(たいけい)動物 最近までは,ワムシ類(輪虫類)と腹毛類(イタチムシ,オビムシなど)をあわせて輪形(りんけい)動物とし,カイチュウのような線虫類とハリガネムシのような線形類とをあわせて円形動物としていたが,線虫類の研究が進むと,カイチュウのような内部寄生虫は,むしろその一部分で,陸上や海浜の砂泥の中で自由生活をするものが多いことがわかってきた。しかも,そうした自由生活の線虫類は,腹毛類と縁が近いことが明らかにされてきた。そこで,ワムシ類,腹毛類,線虫類,線形類を全部あわせて一つのグループとし,袋形動物門とよぶ研究者もいる。 軟体動物 体の腹側が足になっているので腹足類とよばれる巻き貝に属するマツバガイ,ウノアシガイ,バテイラ,タマキビガイ類,オオヘビガイ。足が斧の形をした斧足類とよばれる二枚貝に属するケガキ,イガイ,ムラサキインコガイ。小判形の体で背に8枚の板状の殻がならんでいるヒザラガイ類(多板類)は一番原始的な体制をもつといわれる。腹足類では,その他に,アメフラシ類やクツナミ貝類,ウミウシ類をみかける。陸上にすむ巻き貝の一種であるカタツムリとナメクジも軟体動物である。ナメクジはカタツムリに近縁で,貝殻が退化した類であるが,その体には骨や甲(こうら)のような固い骨格が全くない。そして,殻からのびだしたカタツムリの体を調べると,ナメクジと全く同じようである。このように貝殻以外には骨格がなく,体が筋肉質で軟らかいのが軟体動物全体の特徴のひとつである。 環形動物 磯には,釣りの餌に使われるゴカイやイソメなどの環形動物がすんでいる。細長い体をよくみると,ほぼ同じ大きさのたくさんの節にわかれていることに気づく。この節は外側だけのものではなく,体の内部も節ごとに一枚の薄い膜で仕切られていて,一つずつの部屋になっている。この一つ一つの節を「体節」とよんでいるが,体がこのような多くの体節からできている動物の仲間の一つが,環形動物であり,もう一つの大きなグループが節足動物である。節足動物のうち,最も繁栄している種は陸上生活に適応した昆虫類で種名のわかっているものだけでも,約85万種,動物全体を約114万種としても,その約75%を占める巨大な動物群であるが,海で生活している種は極めて少なくウミアメンボ,ウミユスリカなど数百種程度である。磯の節足動物はなんといってもエビ,カニ,ヤドカリ,カイアシ類(ケンミジンコ)やフジツボ類が属する甲殻類で約2万6000種が知られている。 棘皮(きょくひ)皮動物 潮間帯では,ウニやヒトデの仲間がよくみつかる。これらの動物はナマコ類やクモヒトデ類を含む棘皮動物であるがすべて海産である。体は放射相称のものが多く,体腔の一部が水管系となってそこに海水を入れ管足を動かして運動,呼吸,栄養摂取,感覚などの働きをする。体内には,炭酸カルシウムの骨片からなる内骨格があり,骨片の形態で分類できるグループもある。 原索動物 この仲間は背骨のない動物であっても脊索(せきさく)という背骨に似た原始的なものをもっているばかりでなく,他にも脊つい動物と共通する点が多い。したがって,この動物群は,脊つい動物が無脊つい動物から進化してきた道すじを考える上で,おたがいの間の橋渡しとなっていると考えられる重要な動物である。磯では,岩礁のオーバーハング部分の下側などで群体をなしたイタボヤ類がよくみつかる。この仲間には,ホヤ類(尾索類)の他に尾虫類(オクマボヤ),サルパ類(ウミタル・ヒカリボヤ),頭索類(ナメクジウオ)が知られている。 E 動物の系統 ◆動物の体制と系統 動物の体制の進化は,形態学,発生学,古生物学などの立場から議論され,現在,下図に示すような動物の系統,類縁関係が推定されている (Margulis and Schwart,1987)。 この系統樹の中にも,明確な結論が得られないままになっている問題も多いが,ここでは,和田・佐藤(1993)に従って,動物を分類する場合の体制の相称性,体腔,旧口・新口動物群などの概念について説明していきたい。
上の図では,形態学的に単純な動物群から,より複雑な体制をもった動物群へと並べてある(右から左へ)。まず,器官が分化せず,外形も明確でない海綿動物門と,最近,発見された板状動物門Placozoaが,側生動物群として,明確な組織・器官の分化が認められる真正後生動物群から分けられている。真正後生動物は,次に,体制の相称性をもとに,放射相称性を示すクラゲ類(刺胞動物)とクシクラゲ類(有櫛動物)およびそれ以外の左右相称性を示す動物に二分される。動物では,その発生の際に,内胚葉・中胚葉・外胚葉の3種類の組織層が分化する。側生動物や放射相称動物は明確な中胚葉をもたないことから,二胚葉性の動物としても区別されている。 より複雑な体制を発達させた左右対称動物は,さらに,体腔とよばれる体の隙間の構造などを基準にして三つのグループに分けられている。体腔には,2種類あり,発生の初期に胚の割球の間にできる隙間(卵割腔)に由来する原体腔と,中胚葉性の組織から二次的に生じてくる真体腔とがある。真体腔には,それを裏打ちする腹膜とよばれる中胚葉性の上皮があり,これによって,原体腔と区別される。初めてできた卵割腔がやがて中胚葉に埋められた形でなくなる無体腔動物,原体腔だけをもち真体腔をもたない原体腔動物,真体腔をもつ真体腔動物の三つのグループである。真体腔は,さらに,中胚葉が裂けてできる裂体腔と,原腸先端の中胚葉性の腔から生じる腸体腔の2種類に分類される。前者の裂体腔をもつ動物は,原腸陥入部が口になるか,または,原腸の閉じた付近に口が形成されることから旧口(前□)動物とよばれる。また,後者の腸体腔をもつ動物は,原腸陥入部は肛門となり,その反対側に口が新しく開くことから新口(後口)動物とよばれる。この二つの動物群の間には,新口動物が放射卵割を行うのに対し,旧口動物は主にらせん卵割を行うなどの違いもみられる。これらの関係を高校生物向きに配列した系統樹を次の図に示す。
◆分子系統樹 自然分類の考え方に従って,生物の系統を化石や現存生物の形態,発生様式などの比較による定性的方法で調べ,類縁関係を推定して系統樹をつくった場合,使用した方法のちがいによって,いくつかの異なった系統樹がつくられることがある。これまでは,このような場合,どの系統樹がより真実に近いものかを証明する方法がなかった。20年ほど前から発展してきた分子生物学が,近年,この間題に一つの解答を与えている。それは,生物体をつくっているDNA,RNAやシトクロム,ヘモグロビンなどの高分子の組成と生物の系統の間に深い関係のあることがわかり,2つの種の差を数で表わすことができるようになったからである。定量的に数値を使えることは,従来の系統樹が単に定性的な経路を示すだけであったのに対し,非常に有用で,進化・系統に関する学問が,これから急に進歩することが期待される。 シトクロムcによる系統樹 好気呼吸を行う生物は,電子伝達系を構成するシトクロムcのタンパク質部分を比較すると,大部分の生物では,104個のアミノ酸のうち,多くの共通部分をもっている。種によって異なっている部分を比較すると次表のようになる。たとえば,N末端から数えて15番目のアミノ酸について,DNAの遺伝暗号の変化は次のように生じたと考えられる。つまり,Val(バリン)がGlu(グルタミン酸)になるためにはDNAに1か所,ValがSer(セリン)になるためには2か所変化が起こる必要がある。したがって,アカパンカビはヒトよりも酵母菌に類縁が近いということになる(次表)。このような考えにもとづいて,シトクロムcの一次構造の変異からDNAの塩基が何回変化したかを推定し,その結果を系統樹として表したものが次図である。この系統樹と従来の形態その他をもとにした系統樹とを比較して,一致した場合には,その系統樹がより真実に近いと考えられる。 |
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シトクロムcのヘム結合部の一次構造 |
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N末端から数えたアミノ酸 |
・13 |
・14 |
・15 |
・16 |
・17 |
・18 |
・19 |
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ヒト |
- |
-LCys |
-Ser |
-Gln |
-Cys |
-His |
-Thr |
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ウマ |
- |
-TCys |
-LAla |
-Gln |
-Cys |
-His |
-Thr |
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酵母菌 |
-Arg |
-Cys |
-Glu |
-Leu |
-Cys |
-His |
-LThr |
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アカパンカビ |
-Gly |
-TCys |
-Val |
- |
-Cys |
-His |
- |


シトクロムcによる動物の系統樹(数字は変換した塩基数)
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分子時計 次表は,各生物のヘモグロビン分子(α鎖)を比べたときの,アミノ酸の違いの数を示してある。ヒトとウシを比較してみると,両者のヘモグロビンは,141個のアミノ酸のうち17個のアミノ酸を異にしている。
一方,化石の研究から,ヒトがウシと共通の祖先から分岐したのは,約8000万年前と推定される。したがって,1個のアミノ酸が変化するには,ほぼ1000万年(8000万年÷(17÷2):17÷2は,共通の祖先からヒトとウシそれぞれで同数のアミノ酸が変化するため)かかることになる。また,ヒトとサメでは79個も違う。この相違度をもとに系統樹をつくると上図のようになり,これが化石から求めた系統樹とよく一致する。このようなタンパク質やDNAで,その中のアミノ酸や塩基の置き換る速さが一定であることがわかり,時間を刻みこんでいることになるので,分子時計ともよばれる。アミノ酸や塩基の置換率(置換速度)が一定である理由は,これらの置換率が突然変異率に比例する確率的な現象であることによる。 5SrRNAによる系統樹 本物の時計に秒針・短針・長針があるように,分子時計にもその種類によって,分子の置換速度の速いものと遅いものがある。類縁関係の近い種間で,系統関係を調べる場合には,前述のヘモグロビン分子を構成するアミノ酸のように,比較的速い置換速度をもつ分子を分子時計として利用するのが有効である。類縁関係の離れた生物間の系統関係を調べる場合には,置換速度の遅い分子を用いる必要がある。たとえば,5SリボソームRNA(5SrRNA)とよばれる分子は,アデニン・ウラシル・グアニン・シトシンの4種のヌクレオチド塩基が120個ほど,鎖状につながってできている物質であるが,この分子の置換速度は1塩基座位当たり10億年に0.3回程度と非常に遅いため,時計の短針に相当する働きをもった分子時計として使用できる。これを用いて分子系統樹をつくるためには,まず,各種の生物から5SrRNAを分類精製し,塩基の一次配列を決定する。次に,その配列を各生物間で比較して,ヌクレオチド塩基の相違度(%,相違座位数÷比較座位数)を計算し,これを全配列について求める。さらに,相違度から進化距離を計算し,進化距離の小さい順に生物を並べると分子系統樹ができる。
◆脊索動物(原索・半索脊つい動物)の分類の問題 脊つい動物は,脊索とよばれる棒状の器官,その背方にある中空の神経管,および鯉裂(咽頭側壁の裂け目)を少なくとも一生の一時期にもつ動物として,尾索類・頭索類と共に脊索動物としてまとめられている。しかし,これらの動物群がどのような進化経路を経て現在に至っているかについては,前世紀から長い議論が続いている。その主な論点は,脊索動物の祖先として,現在のホヤのような固着した生活を営む動物を想定するか(図A,B),それとも,現在のナメクジウオのように自由に動きまわる動物を想定するか(図C)にある。 Garstang(1928)は,固着性の祖先(図A)からネオテニー(幼形成熟)による進化が起こって,現在の脊つい動物や頭索類が生ずるとした。また,尾索類の系統でも,浮遊性のサルパ様祖先の幼生からネオテニーによって,成体でも脊索が残っているオタマボヤが生じてきたと考えている。Berrill(1955)も,固着性の祖先が,一度のネオテニーによって,脊つい動物,頭索動物,オタマボヤを生みだしたと考えている(図B)。一方,自由に動きまわる動物を祖先と考える説は,時岡(1971)に代表され,自由遊泳性の祖先がその運動能を発達させ,脊つい動物や頭索類を生みだしたと考えている(図C)。また,尾索類の系統では,最も早く分岐したオタマボヤでは,成体の運動能が残り,完全に運動能を失い固着性に移行したものがホヤであり,浮遊性に移行していったものがサルパ類であると考えている。
前述した分子系統学では,これまでのところ,5SrRNAによる研究も,18SrRNAによる研究も,棘皮動物と脊索動物が近縁ではないことを示唆してはいるが,脊索動物の進化については,明確な答を出せずにいる。 次の図は,和田・佐藤の18SrDNAの研究から導かれた系統樹である。この系統樹からいえることは(1)ホヤ,サルパ,オタマボヤを含む尾索類の仲間が単系統群としてまとまること,さらに,この尾索類の系統では,オタマボヤが最も早く分岐していることである。(2)頭索類のナメクジウオと脊つい動物が近縁であることは明らかである。しかし,(3)尾索類が脊つい動物とナメタジウオを含むグループに含まれるかどうか,および,半索動物,棘皮動物と,これらの動物群の関係がどうかについては明確な答を導くことはできない。
尾索類は脊索や脊つい動物の甲状腺にあたる内柱など,脊つい動物や頭索動物と多くの共通の形質を有しており,脊索動物として一つのグループにまとめられることについては,ほぼ理解が一致している。また,上図に示した尾索類でのオタマボヤの早い分岐を考えると,脊つい動物の進化の経路のうち,脊つい動物の祖先にホヤのような固着性の動物を想定した経路は,固着性祖先説が2度のネオテニー進化を想定しなければならず比較的考えにくい。運動性祖先説は,それぞれのグループでの進化的傾向から比較的簡単に現在みられる体制を説明することができる。進化のできごとの数の最も少ないような進化経路を考えようとする最節約(パーシモニー)の立場からも,後者の自由に動きまわる祖先を考えた経路の方が支持されよう。 ◆ヘッケル説とハッジ説 ヘッケルの「反復説」の内容をまとめると,「個体発生(個体の胚発生および出生後の生活史)の過程では,祖先の成体型が系統発生(系統の進化史,成体段階の系列として描かれる)の順序でくり返されるが,ただ,幼生生活への適応で発生過程の一部が変化することもある」ということである。また,ヘッケルは,系統発生が個体発生の要因になるというようにいっているが,これは逆であって,個体発生の変化が系統発生の原因になるのである。現在の多くの研究者はヘッケルの反復説よりも,半世紀近く前にたてられたドイツのフォン・ベーア(E.von Baer)の法則の方が正しいと考えている。ベーアの法則は四つに分かれているが,まとめると「動物の発生は,その初期ほど一般的な特徴があらわれ,発生が進むにしたがって,特殊な特徴があらわれてくる。そして,ある動物の若い時代の形態が,他の動物の成体形ではなく若い時代の形態に似る」というものである(伏見他編〔1959〕進化−その必然と偶然−,中山書店)。 ところで,ヘッケルは,海綿動物以外の後生動物はすべて刺胞動物を経て,進化したという刺胞動物説(ガストレア説)をたてた。この根拠になっているものが「反復説」である。へッケルは,後生動物の過去の祖先を想定し,モネラ段階,アメーバ段階,モレア段階(シンアメーバ)を経て,ブラステア(胞胚動物)が生まれ,ついで,ガストレア(のう胚動物)ができ,以後の進化のもとになったと唱えた。この両動物は,それぞれ,動物が発生の過程で形成するブラストウラ(胞胚)およびガストルラ(のう胚)にあたるものでのう胚動物のままで足ぶみしながら変化し,多様化してきたのが,現在の刺胞動物だと考えた。この考え方に対して新しい説を唱えたのが,ユーゴスラビアのハッジ(Hadzi,J,)であり,この考え方は,イギリスの発生学,進化学の権威者であったド・ベア(G.R.deBeer)により支持された。
刺胞動物説反論の第一の理由は,刺胞動物を単純に二胚葉動物ときめるのが早計だということにある。刺胞動物の内外の両胚葉間(中膠とよばれる)には様々な細胞がある。それらの細胞には,もっと高等な動物にみられる結合組織の細胞に相当するものなどがあり,これは中胚葉の細胞に相当する。このことから,刺胞動物は三胚葉をそなえた動物であり,胚葉の関係で刺胞動物の原始性を決定できないとしている。第二の理由は,ばらばらの細胞個体が群体となり,一個体のような体制をそなえたといっても,その性質が遺伝的となって多細胞動物を生じたとは考えにくいことである。第三の理由は,刺胞動物説に代るもっと妥当な説を提出しうるということにあった。 ハッジによると,原生動物から後生動物への道は,多核のせん毛虫類から扁形動物のウズムシ類へという方向で進化したとされる。従来の学説では,せん毛虫類は原生動物として特殊化しすぎてしまったもので,進化の系統上ではゆきどまりの道だということになっていたが,ハッジ説は刺胞動物を経由しないで扁形動物が生じたと考えた。また,ハッジは刺胞動物の発生を研究し,最も単純そうにみえるヒドロ虫の神経系が最も進化していることより,後生動物は,その成立時点から基本的に左右対称であったと考えた。したがって放射相称の刺胞動物である花虫類(イソギンチャク),ハチ虫類は,左右相称からの変形にすぎないとし,起源となった左右相称動物は扁形動物の無腸目(ウズムシ類)が進化したものであろうと主張した。ハッジとへッケルの系統樹の比較を次図に示す。どちらの系統樹が正しいか。それを決めるのは,ハチ虫類の系統上の位置である。ハチ虫が花虫類により近縁であれば,ヘッケル説(図a),ヒドロ虫類に近ければハッジ説(図b)が正しいことになる。5SrRNAを利用した分子系統樹(下図および注)は,ハッジ説に都合のよい結果をえている。この意味するところは,後生動物は最初から最後まで,基本的には左右相称のボディプランであって,決して,反覆説はこの段階には適用できず,刺胞動物の放射相称性は,一種の退行現象であるということになる。しかし,分子系統学の結果は「分子の証拠はハッジ説の正しさを証明した」のではなく,「無数にある生物の形質の中から生体高分子を二つえらびだし,いくつかの生物種で比較したところ,ハッジ説を支持する結果がえられた」というのが正確な表現であると述べている馬渡(1993)〔遺伝47,12:43〜47〕の見解を大切にしたい。
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系統分類学の研究史 |
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物に名前をつけ,その形質を記載して,その特徴をもとにいくつかの分類群にまとめるという方法は古くから行われていた。古代ギリシアの大哲学者であり,「生物学の父」,「動物学の父」といわれたアリストテレスは,属(または,“類”genos)は一般であり,種(eidos)は属の中の特殊なものであるとして,すでに,属と種を学問的に規定していた。この考え方はフランス植物学の父とよばれるツルヌフォールによって分類のための属と種および分類体系の確立へと発展させられていった。彼の「基礎植物学」は673属8846種の植物が記載され,植物全体を花の形によって14綱に分け,さらに,果実,種子によってそれぞれの綱を目sectionに小分けしている。植物を花の形という一定の形質によって分類したことは画期的なものであった。1730年頃ツルヌフォールの分類体系に代わってリンネは植物を雄しべ,雌しべで分類する新しい分類体系を考案し,「自然の体系」(1735)として発表した。リンネの分類体系は生物の類縁関係を反映した自然分類ではなく,人間の立場から考えた実用的で形式的な人為分類であったと考えられている。分類学が自然分類の方向へと動きはじめるには,アダンソンやアントワーヌ・ロラン・ド・ジェシューの出現をまたねばならなかった。動物の分類はラマルクやキュヴィエが現われるまでは,アリストテレスの分類体系にとどまっていた。ダーウィンは「種の起源」の序文でラマルクの進化説を過小評価しているが,それは自分の進化のしくみについての説明がラマルクと全く異なっているにもかかわらず,一般の人々がそれを混同することを恐れたからだといわれている。ダーウィンの進化論を援護した生物学者の一人がヘッケルである。彼は生物が進化することを認め,進化の道すじを示す系統樹をつくり,系統分類学への道を開いた。 |
BC 384〜322 アリストテレス 動物誌,動物部分論 1656〜1708年 ツルヌフォール 基礎植物学(1694) 1707〜1778年 C.vonリンネ 自然の体系第1版(1735) 植物種誌(1753)植物の学名の始まり 自然の体系第10版(1758) 動物の学名の始まり 1727〜1806年 ミシェル・アダンソン セネガルの自然誌(1757) 1748〜1836年 アントワーヌ・ロラン・ド・ジェシュー 植物属誌(1789) 植物諸科全2巻(1763〜1764) 1744〜1829年 ラマルク 動物哲学(1809) 無脊つい動物学(1815−1822) 1769〜1832年 キュヴィエ 動物自然誌要綱(1798) 1809〜1882年 C.ダーウィン 種の起源(1859) 1834〜1919年 E.ヘッケル 一般形態学(1866) 体系的系統学3巻(1894−96) 1884〜1972年J.ハッジ 後生動物の進化(1963) |

