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2節 共有結合によって結びついた物質

 

 

有機化合物の炭素原子間の結合
 炭素原子間の単結合,二重結合,三重結合とその結合エネルギーは,炭素原子の
価電子がつくるsp3sp2sp混成軌道を考えることで理解できる。
 炭素原子間の結合の種類と,その結合エネルギー,及び原子間距離は,次表の
ようになる。

炭素原子間の結合

炭素原子間の
結合の名称

飽和結合

不飽和結合

単結合

二重結合

三重結合

ベンゼンの結合

共有結合の数

CC

CC

CC

CC

s 結合1

s 結合1

s 結合1

s 結合1

(sp3混成)

(sp2混成)

(sp混成)

(sp2混成)

p 結合1

p 結合2

p 結合0.5個相当

原子間距離〔nm

0.15

0.13

0.12

0.14

s 結合は,2個の電子軌道の重なり方が大きく,分子軌道が1本の軸の周りに対
称的に分布する結合で,当然結合エネルギーも大きい。p 結合は,1つの平面の両
側にそれぞれ電子雲が分布する結合で,2個の電子軌道の重なり方が小さく,s
合より結合エネルギーが小さい。単結合はs 結合1個で形成されるが,二重結合・
三重結合ではこれにp 結合が1個・2個加わって形成される。結合数の多い結合ほ
ど結合力が強くなり,原子間距離が小さくなる。しかし,p 結合はs  結合より弱い

ので,結合エネルギーは単結合の2倍,3倍にはならず,それより小さい値となる。
 ベンゼンC6H6の炭素原子間の結合は,単純な単結合でも二重結合でもない。こ
のことは,分子が正六角形であることから証明される。もし,単結合と二重結合が
交互に存在するとすれば,炭素原子間の距離も,長いものと短いものが交互に存
在することになり,歪んだ六角形になるはずである。ベンゼンではp 結合が特定の

原子間に固定されず,炭素原子間では平均して0.5個分のp 結合が存在するとみな

すことができる。なお,結合エネルギーは,p 結合の0.5個分相当よりは大きくな

る。これはベンゼンが共鳴構造をとるためと説明されている。

 

アセチレン分子の構造
 三重結合をつくる2個の炭素原子と,それに結合する2つの原子は一直線上に存
在する。このとき炭素原子は,2s1つの2pとでsp混成軌道をつくり,他の炭
素原子や水素原子との間でs 結合を行う。残った2つの2p軌道は,2個の炭素原子
との間で2対のp 結合を行う。結局,炭素原子間は1つのs 結合と2つのp 結合の
三重の結合で結ばれる。



エチレンの分子構造
 アルケンの二重結合をつくる炭素原子と,これに結合する原子は一平面上に存在
し,結合角が約120°になることは実験的事実である。これは,炭素原子が励起さ
れて1s22s12p3の電子配置となり,このうち2s2つの2p(たとえば2px2py)
sp2混成軌道をつくるとすればうまく説明でき,数学的にも証明されている。
 例えばエチレンでこの結合をみると,3つのsp2混成軌道のうち1つは他の炭
素原子と,残りの2つは水素原子と共有結合(s 結合)している。sp2混成軌道に
加わらなかった1つの2p軌道(たとえば2pz)は,2個の炭素原子間で共有結合(p
)するので,炭素原子間はs 結合とp結合との二重の共有結合(二重結合)で結ば
れることになる。

C2H4の構造C=C 0.339nmC-H 0.1087 nmCCH 121.3°HCH 117.4°
C3H6の構造C=C 0.1341 nmC-H 0.1104 nm (ビニル基)0.1117 nm (メチル基)
CC 0.1506 nmCCC 124.3°CCH 121.3°(ビニル基)110.7°(メチル基)

共有結合

 H2分子が形成されるとき,H原子は電子を1個しかもたない1s電子軌道を互い

に重ね合わせて,2個のH原子の間で電子の行き来ができるようになる。このよう

にして,2個のH原子はより安定なH2分子をつくる。この際,重ね合わされた元の

電子軌道は消滅し,新しく分子軌道がつくられる。分子軌道は2つの原子を一様に

包み込んで原子どうしを強く結びつける。このように,電子を共有することによっ

てできる結合が共有結合である。

 水素分子の解離エネルギーは436kJ/molであることが知られている。これは

次式のように示される。

  H2()2H()436kJ

 2個のH原子が完全に離れているときのポテンシャルエネルギーを0とすると,

この2原子が互いに近寄って共有結合を形成する場合のエネルギー変化は,図

のようになる。2つの原子核の間の距離がr(0.074nm)になったとき,2原子は

最も強く結合して安定になっていることがわかる。この場合,H2原子が完全

に離れているときに比べて,D (436kJ/mol)だけエネルギーを放出している。

H原子の共有結合半径と呼んでいる。

 

テキスト ボックス:  
H2分子のエネルギー

 

 分子軌道が形成される場合,その形と電子密度の関係をH2分子について考えて

みよう。Heの電子配置は1s2である。1s軌道の形は球状で,図の(A)のように

なっている。原子核を通る直線を横軸に,直線に垂直な面内の電子密度を縦軸に

とって図示すれば,図(a)のように表される。そこで,Heの原子核を二分し,そ

れぞれの+eの電荷を少しずつ離していくと考える。+e2つの核が十分離れた

状態では,2個のH原子が離れて存在しているのと同じ状態とみなすことができ

る。そのような状態になるまでの軌道の形は,図の(A)→(B)→(C)→(D)をたどる。

実際のH2分子の核間距離は0.074nmであり,この場合の分子軌道は(C)に相当す

る。この分子軌道はもともと1個のHe原子核を包んでいた1s軌道であるから,

2個の1s電子は2個の核電荷から同じ影響を受けている。

1sの電子配置のH原子2個が,(D)の孤立した状態から近づいて接触した場合,

2つの1sが重なり合って変形し,その過程で安定して436kJ/molもの熱を放出する。

(C)の状態では,どの電子がどの核に所属するかが決められなくなっている。すな

わち,2個の電子は2個の原子核に一様に束縛されている。これが分子を安定に

している主要な原因と考えることができる。すなわち,2個の電子は2個の原子

核に共有され,2つのH原子は共有結合によって強く結びつけられている。

2分子の分子軌動と電子密度

 

分子の構造と結合  主な分子の構造定数を次に示す。

H2

直線

H-H 0.07414nm

CO2 直線

C-0 0.11600nm

H2O

V字形

0-H 0.09575nm

HOH104.51°

 

NH3

三角錐

N-H 0.1012nm

HNH114°

 

O2

直線

0-0 0.12074nm

N2 直線

N-N 0.10977nm

 

配位結合

 三塩化ホウ素BCl3の分子では,B原子はsp2混成軌道をとり,2pzの電子軌

道は空になっている。一方,アンモニアNH3の分子は,非共有電子対を2pz

電子軌道にもつ。BCl3NH3が近づくと,Nの非共有電子対をB2pz軌道に

与え,BNの間でその電子対を共有して結合を形成する。

 この結合は共有結合そのものであるが,一方の原子の非共有電子対を用いて共

結合をしているので,その区別の意味で特に配位結合と呼ぶ。

 ここで注意すべきことは,共有結合の極性を考えるとき,電気陰性度の差から

生じる正負と逆になる場合があるということである。BCl3Bには,Nから非共

有電子対が入ってくるから,電子は過剰になっており,NH3Nの周りの電子は不

足している。したがって,BCl3は負に,NH3は正になっている。

 

電気陰性度

 共有結合の極性(イオン性)は,結合する2原子間の電気陰性度の差によって推

できる。Mullikenは,原子のイオン化エネルギーと,電子親和力の平均値をその

原子の電気陰性度と定義した。しかし,歴史的にはPaulingが結合エネルギーか

ら簡単な数値として求めていたので,この値がよく用いられる。

 

ポーリングの電気陰性度

  

原子Aの電気陰性度を*A,原子Bの電気陰性度を*Bとし,ABが共有結合す

るとき,ABの差が大きいほど,結合の極性は大きくなる。したがって,この

結合のイオン性も増大する。電気陰性度の差と結合のイオン性〔%〕の間には,次

の表のような関係がある。これを見ると, (AB)の値が1.7あたりで,イオン性

50(共有結合も50)になる。

           

電気陰性度の差と共有結合のイオン性〔%〕

*A-B

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

1.4

1.6

1.8

2.0

2.2

2.4

イオン性

1

4

8

15

22

30

39

47

55