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第2節 糖 類
◆糖類
糖類は糖質ともいい,単糖類とこれが複数個縮合した少糖類や多糖類の総称である。
グルコースやスクロースなどは,一般式Cm(H2O)nで表せるため炭水化物ともいう。
しかし,代表的なグループである単糖類にも,デオキシリボースC5H10O4やラムノー
スC6H12O5などのように,Cm(H2O)nの一般式にあてはまらないものもある。また,Cm(H2O)n
で表わされる化合物でも,酢酸C2H4O2や乳酸C3H6O3などは糖類のうちに入れない。糖類
を厳密に定義することは難しいが,生化学辞典(東京化学同人)では,次のように糖質
を定義している。「・・・。ポリアルコールのアルデヒド,ケトン,酸,さらにポリア
ルコール自身や,それらの誘導体,縮合体なども含めて糖質あるいは炭水化物と称し
ている。・・・」
糖質は,糖類を主要な成分としてもつ物質の総称で,タンパク質,脂質に対応した
用語として用いられ,重要な生体成分,また栄養素としての概念を示している。糖の
みからなる単純糖質と,その他の物質を含む複合糖質とに分けられる。しかし実用上
は,炭水化物,糖類と同義に用いられる。
◆単糖
加水分解によりさらに簡単な糖類に分けられないものを単糖類といい,一般式
Cm(H2O)nをもつ。単糖を構成する炭素数は2個以上(理化学辞典,生化学辞典)と3個以
上(化学辞典)と本により異なる。その炭素数で,三炭糖トリオース,四炭糖テトロー
ス,五炭糖ペントース,六炭糖ヘキソース,七炭糖ヘプトースとよんでいる。
基本的な単糖は,複数のヒドロキシ基をもつアルデヒドまたはケトンである。アル
デヒド基をもつものはアルドース,ケトン基をもつものはケトースという。光学活性
をもつアルドースは炭素数3から,ケトースは炭素数4からである。
単糖が環状構造をとる場合,環を構成する原子数によりフラノース(五員環),ピラ
ノース(六員環),セプタノース(七員環)に分けられる。フラノースはフラン,ピラノー
スはピランの名に由来している。

鎖状の単糖が環構造をとるにあたっては,アルドースのアルデヒド基,ケトースの
ケトン基のカルボニル基へのヒドロキシ基の付加が起こり,分子内でのヘミアセター
ル形成が起こっている。

ヘミアセタールが形成されたとき生じるヒドロキシ基とそれから一番遠いヒドロキ
シ基の環に対する関係で,相対する側にあるときはα−構造,同一側にあるときβ−構
造としている。フルクトースではフラノースを基準としてα−,β−を決めている。

アルドースのアルデヒド基は還元性を示し,フェーリング液やアンモニア性硝酸銀
溶液を還元し,アルデヒド基は酸化されてカルボキシル基となる。ケトースのフルク
トースは酸化されてD-エリトロン酸とシュウ酸になる。
◆グルコース(ブドウ糖)
単糖類には,D,Lの光学異性体があるが,天然に存在するグルコースはD-グルコ
ースである。グルコースは植物では熟した果実中に多く,葉・茎・根・花などにも存
在し,フルクトースとともにハチミツの主成分でもある。動物では血液・リンパ液中
にあり,高等動物では血液中に約0.1%の濃度で含まれている。工業的にはデンプン
を希酸で加水分解し,分解液を中和した後,減圧濃縮し,活性炭で脱色して結晶化さ
せている。
水から再結晶させたものは1分子の水和水を含み,融点86℃である。水に溶けやす
く,アルコールに溶けにくい。甘味はスクロースの1/2程度であるが,甘味剤として
菓子・清涼飲料水・合成酒などに加えられている。また医薬用としても多く消費され
ている。
グルコースは水溶液中ではα−グルコース,β−グルコース,極微量のアルデヒド構
造が平衡混合物として存在している。

α−グルコースとβ−グルコースはイス形をとっており,それらの構造定数は図のよ
うになっている。教科書では,教科書検定の関係で本文中にイス形の図を書けなかっ
た。

α−D−グルコースを水に溶かすと,始めは表の比旋光度を示すが,だんだん変化し,
2,3時間後には+52°になる。これは平衡混合物の比旋光度に相当する。β−D−グル
コースを溶かしたときも,結局は+52°になる。この比旋光度の変化を変旋光といい,
糖の環状構造が正しいことの重要な根拠の1つである。

グルコースの反応(銀鏡反応) 還元性有機物の検出反応の1つ。試料を清浄な
ガラス器に取り,これにアンモニア性硝酸銀水溶液を加え温めると,Ag+が還元
されAgとなり,これがガラス器壁に付着し鏡のようになるので銀鏡反応といわれ
る。ジュワーびんや鏡の製造はこの反応に基づいている。
R−CHO+2[Ag(NH3)2]OH→2Ag+RCOONH4+H2O+3NH3
◆グルコースの反応(フェーリング液の還元)
フェーリング液は糖の検出・定量に広く用いられる試薬で,1848年,ドイツの科
学者H.Fehling(1812〜1885年)により考案された。通常はA液(CuSO4水溶液)と
B液(KNaC2H2(OH)2(COO)2とNaOHの混合水溶液)に分けて保存し,使用直前に混ぜて使う。
フェーリング液は深青色で,これに糖を加えて煮沸すると,Cu2+が還元されてCu2O
の赤色沈殿が生じる。反応は化学量論的ではないが,へキソース1分子は銅の約5原
子を還元する。
R−CHO+2Cu2++5OH−→R−COO−+Cu2O+3H2O
なお,ベンズアルデヒドは,強塩基性のときカニッツアーロ反応Cannizzaro reaction
によりアルコールとカルボン酸になりやすく,フェーリング液とは反応しにくい。
2R−CHO+NaOH→R−CH2OH+R−COONa
◆フルクトース(果糖)
甘い果実,蜂蜜中に多量に存在する。工業的にフルクトースを製造するには,キク
イモ(多糖類のイヌリンを主成分とする)を加水分解する。また,スクロースを転化し
てグルコースを晶出させた後,フルクトースを取り出す方法もある。フルクトースは
結晶しにくく,きわめて吸湿性が強い。水に溶けやすく,アルコールやアセトンにも
可溶である。結晶は,ピラノース型だけが得られている。
構造式としては,ピラノース型とフラノース型の2種がある。フルクトースがイヌ
リンやスクロースなどの構成成分となっているときには,β−D-フルクトース型で存
在する。天然に単独で存在するとき,またはスクロースやイヌリンの加水分解によっ
て得られたものは,D-フルクトピラノース型である。フルクトースは水溶液中では大
部分がピラノース型であるが,一部はフラノース型も存在する。

◆その他の単糖
化学Uに関連した単糖には次のようなものがある。

◆二糖類
糖が環構造をとるとき関与するヒドロキシ基が他の糖と脱水縮合してできるエーテ
ル結合をグリコシド結合とよんでいる。例えばグルコースがα型のときはα-1,β型の
ときはβ-1としている。
二糖類は,単糖類2分子がグリコシド結合で結合したものであるが,同じ単糖類か
らであっても,縮合するヒドロキシ基の位置が異なれば,異なる二糖類が生成する。
たとえば,グルコース分子からなる二糖類には次のようなものがある。
α,α−トレハロース(α-1-α-1-結合) コージオース(α-1,2,-結合)
ニゲロース(α-1,3-結合) マルトース(α-1,4-結合)
イソマルトース(α-1,6-結合)
ソホロース(β-1,2-結合)
ラミナリビオース(β-1,3-結合)
セロビオース(β-1,4-結合)
ゲンチビオース(β-1,6-結合)
◆マルトース(麦芽糖)
デンプンにアミラーゼを作用させるとマルトースが生じる。アミラーゼは唾液中に
もあるが,特に発芽した大麦,すなわち麦芽の中に豊富に存在し,これを用いてデン
プンを分解するとマルトースが得られることから,マルトースに対して麦芽糖の名が
用いられるようになった。市販の水飴の主成分はマルトースである。
マルトースは甘味が強く,水にはきわめてよく溶けるが,アルコールには溶けにく
い。また,フェーリング液を還元する性質がある。マルトースの構造は,α−グルコー
スがα-1,4-グリコシド結合したもので,還元末端がα形とβ形の2種がある。α形は融
点108℃,β形は融点103℃である。マルトースをマルターゼで加水分解するとグルコ
ースが生成する。
アスパルテームを利用したダイエット甘味料パルスイート(味の素)には,還元麦芽
糖水飴(マルチトール)も含まれている。これはマルトースの還元末端のアルデヒド基
に水素を付加し還元したものである。

◆スクロース(ショ糖)
スクロースは代表的な甘味剤で,サトウキビ(汁液の約20%)やサトウダイコン(テン
サイ)(汁液の約10〜15%)から得られる。純粋なスクロースは白色の結晶で,185℃で融
解してあめ状となり,200℃ぐらいになると,褐色のカラメルになる。
スクロースを希硫酸や希塩酸,あるいはスクラーゼ(スクロ−スα−D-グルコヒドラ
ーゼ)や腸液中にあるインベルターゼ(β−D-フルクトフラノシンセターゼ)で加水分解
すると,グルコースとフルクトースになる。

純粋なスクロースには還元性はないが,加水分解すれば還元性を示すようになる。
スクロースはα−D-グルコースとβ−D-フルクトースが,α-1-β-2-グリコシド結合した
もので,それぞれヘミアセタール構造に関係するヒドロキシ基がグリコシド結合に使
われているために,還元性がなくなっている。
スクロースの比旋光度は,[α]20D=+66.5°であるが,分解して生じる2個の単糖のう
ちグルコースは右旋性,フルクトースは左旋性であるため,加水分解生成物の比旋光
度は[α]20D=−20° となり,左旋性を示す。加水分解による旋光性の逆転を転化といい,
加水分解で生成するグルコースとフルクトースの等量混合物を転化糖よんでいる。転
化糖はスクロースとは味が異なり,腸より吸収されやすいので,食品添加物として利
用されている。
砂糖は,製造法(含蜜糖,分蜜糖),生成過程(粗糖,精製糖),色相(白,赤,黒糖)な
どで分類される。ザラメ糖は粒子の大きいものをさし,グラニュー糖,車糖になるに
従って粒子が小さくなる。家庭などで調理に利用されるのは車糖で,精製程度のよい
ものから上白,中白,三温に分けられる。
砂糖の成分〔%〕
|
名称 |
黒糖 |
台湾赤糖 |
カエデ糖 |
テンサイ白糖 |
グラニュー糖 |
上白 |
三温 |
|
スクロース |
86.0 |
80.4 |
84.5 |
99.90 |
99.87 |
98.20 |
95.65 |
|
還 元 糖 |
2.09 |
5.06 |
3.03 |
0.01 |
0.01 |
0.70 |
2.11 |
|
水 分 |
5.7 |
6.1 |
8.0 |
0.07 |
0.01 |
0.53 |
1.91 |
|
灰 分 |
1.37 |
1.45 |
4.47 |
0.02 |
0.01 |
0.02 |
0.11 |
◆ラクトース(乳糖)
β−ガラクトースとグルコースがβ-1,4-グリコシド結合で縮合した二糖類。α形一水
和物は融点201〜202℃,α形無水物は融点223℃,β形は融点252℃である。無水物は
吸湿性が強く,室温では水を吸ってα形一水和物に変わりやすい。
ラクトースは,乳汁に含まれており,人乳で約7%,牛乳で約4.5%を占めている。
還元性を示し,ラクターゼまたはエムルシンで加水分解されてガラクトースとグルコ
ースを生じる。

◆セロビオース
2分子のグルコースがβ-1,4-グリコシド結合で縮合した二糖類。融点225℃(分解),
セルロースの基本構造をもち,天然には遊離のものは存在しないとされていたが,マ
ツ葉やトウモロコシの茎に微量検出された。セルロースの部分アセトリシスにより生
じるオクタアセチルセロビオースを脱アセチル化して得られる。

◆デンプン,アミロース,アミロペクチン
デンプンは,D-グルコースの重合体で,分子量は種類や製法により異なるが,数十
万〜数千万にわたる。それぞれの種類により特有な形のデンプン粒となり存在する。
冷水に不溶で,水中で温めると55〜60℃で粒が膨潤し,粘性の高い半透明なコロイド
溶液となる。この現象を糊化という。
デンプン粒にはミセルと称する微結晶部分があり,糊化によりミセルはなくなる。
ミセルを有するものをβ−デンプン,糊化状態のものをα−デンプンという。β−デン
プンは冷水に不溶でアミラーゼの作用を受けにくいが,α−デンプンは冷水で糊となり,
酵素により分解しやすい。しかし,湿潤状態で放置すると,徐々にβ−デンプンに戻
る性質がある。

アミロースはデンプンの成分で,D-グルコースがアミロースの直鎖状α-1,4-グリコ
シド結合で直鎖状に重合したもので,普通のデンプンに約20〜25%含まれる。平均分
子量は数万〜十数万,平均重合度は200〜1000程度(30〜3000化学辞典)である。アミ
ロースは水中で左回りのらせん構造をとり,均一に分散する。
試薬として販売されている可溶性デンプンは,糊化したデンプンのコロイド溶液に
酸を作用させ,最初に生ずる加水分解生成物で,アミロースより重合度が低くなって
おり,水溶液はデンプン糊より透明である。可溶性デンプンはアミロデキストリン
ともいう。ヨウ素デンプン反応は青色を呈し,還元性はない。
デンプンを加水分解すると重合度の低いデキストリンという多糖が生成する。デキ
ストリンは重合度が小さくなるに従いヨウ素デンプン反応の青色が赤くなり,呈色し
なくなる。(次図)

アミロペクチンもデンプンの成分で,アミロースの直鎖状分子が枝状になったもの
で,α-1,6-グリコシド結合で枝分かれしている。全グリコシド結合に対するα-1,6-グリ
コシド結合の割合は約4%で,グルコース単位25個に1個である。アミロペクチンは,
普通のデンプンに約75〜80%含まれ,分子量はアミロースより大きく,約5万〜5千
万(16万〜600万化学辞典)で,重合度は6千〜28万になる。モチ米やモチトウモロコ
シなどモチ種のものは,アミロペクチンが100%近くあり,アミロースがほとんど含
まれない。
◆グリコーゲン
グリコーゲンは動物の体内に存在する多糖類で,肝臓に約5〜6%,筋肉中に約0.5