ホーム>新編化学I>第2部 物質の変化>第1章 化学反応と熱>A 反応熱と熱化学方程式
A 反応熱と熱化学方程式
反応熱
►反応熱・発熱反応・吸熱反応
化学反応に伴って物質系に出入りする熱量を反応熱という。反応が等温等圧で行
われた場合は定圧反応熱,等温定容で行われた場合は定容反応熱という。前者は反
応物と生成物とのエンタルピー変化で,一般にDHの記号で表され,後者は反応物
と生成物との内部エネルギー変化で,一般にDEの記号で表される。
通常は,1atmのもとで測られたエンタルピー変化DHを,単に反応熱と呼ぶ。
反応で熱が吸収されると,生成物のほうがエンタルピーが大きくなるので,DHは
正になり,吸熱反応と呼ばれる。一方,逆に反応で熱が放出されると,生成物の方
がエンタルピーが小さくなるので,DHは負になり,発熱反応と呼ばれる。反応熱
は,反応の種類によって,燃焼熱・中和熱・溶解熱などと呼ばれる。
熱化学方程式
►熱化学方程式(熱化学反応式)
化学反応に伴う反応熱の出入りを付記した化学方程式(化学反応式)をいう。たと
えば,塩素爆鳴気の反応は,熱化学方程式で次のように表される。
H2(気)+Cl2(気)=2HCl(気)+185kJ
この式で,185kJは,水素と塩素各1molが反応して塩化水素2molを生じたとき
の反応熱であり,反応熱の符号が+であるから発熱反応になる。符号がもし−であ
れば吸熱反応となる。より一般的には,次のように表される。
H2(気)+Cl2(気)
2HCl(気) DH=−185kJ
ここで,エンタルピー変化DHの符号が熱化学方程式の符号と逆であることに注
意したい。
熱化学方程式では,一般に物質をmol単位で示す。また,物質の状態を示すた
めに,化学式に状態を示す記号を付記する。気体では(気)または(g),液体では
(液)または(l),固体では(固)または(s),希薄水溶液では(aq)などとする。
反応熱の種類
►燃焼熱
物質が完全に燃焼する場合に発生する熱量で,普通,物質1g,または1molについ
ての熱量で表される。定圧下と定容下とでの値は異なるが,化学上の目的には,定
容下における燃焼熱をボンベ熱量計で求めた後,定圧下の値を計算で出すことが多
い。)
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有機化合物の燃焼熱〔kJ/mol〕25℃,105Paの値。 |
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物質(状態) |
燃焼熱 |
物質(状態) |
燃焼熱 |
物質(状態) |
燃焼熱 |
|
メタン(気) |
890.7 |
シクロプロパン(気) |
2091.3 |
メタノール(気) |
725.7 |
|
エタン(気) |
1560.7 |
シクロブタン(液) |
2721.1 |
エタノール(液) |
1367.6 |
|
プロパン(気) |
2219.2 |
シクロペンタン(液) |
32 |
1−プロパノール(液) |
2021.3 |
|
ブタン(気) |
2877.5 |
シクロヘキサン(液) |
4163.2 |
2−プロパノール(液) |
2005.8 |
|
ペンタン(液) |
3509.1 |
シクロへプタン(液) |
4598.8 |
1−ブタノール(液) |
2675.9 |
|
ヘキサン(液) |
4163.2 |
ベンゼン(液) |
3267.5 |
2−ブタノール(液) |
2660.7 |
|
へプタン(液) |
4817.0 |
トルエン(液) |
3909.9 |
フェノール(固) |
3053.5 |
|
オクタン(液) |
5470.5 |
o−キシレン(液) |
4552.8 |
グリセリン(液) |
1655.4 |
|
ノナン(液) |
6125.1 |
m−キシレン(液) |
4551.8 |
ギ酸(固) |
254.2 |
|
デカン(液) |
6778.3 |
p−キシレン(液) |
4552.8 |
酢酸(液) |
874.3 |
|
エチレン(気) |
1411.2 |
スチレン(液) |
4395.2 |
シュウ酸(固) |
251.2 |
|
プロピレン(気) |
2039.7 |
ナフタレン(固) |
5156.2 |
サリチル酸(固) |
3022.2 |
►中和熱
酸と塩基の中和反応に伴い,水1molが生成するときの反応熱を中和熱という。
すなわち,H+とOH−の各1molからH2O 1molが生成するときの反応熱である。25℃
で希薄な強酸・強塩基の中和熱は,酸・塩基の種類によらず一定で,約56.5kJで
ある。この理由として,希薄溶液では強酸・強塩基は完全電離していて中和反応は,
H++OH−→H2O
となり,他のイオンの存在に一応無関係であることが考えられる。
濃厚溶液や,弱酸または弱塩基の中和熱では,希釈熱や電離に要する反応熱が関
係し,上のようなことは成り立たない。
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希薄溶液の中和熱(25°C) 単位はkJ/mol |
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|
酸 |
塩 基 |
中和熱 |
酸 |
塩 基 |
中和熱 |
|
HCl |
NaOH |
56.40±0.21 |
安息香酸 |
NaOH |
56.11±0.25 |
|
H2SO4 |
NaOH |
56.57±0.25 |
フェノール |
NaOH |
33.05±0.25 |
|
ギ酸 |
NaOH |
57.03±0.17 |
HCl |
アニリン |
28.20±0.38 |
|
酢酸 |
NaOH |
56.78±0.08 |
HCl |
ピリジン |
23.85±1.25 |
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濃度と中和熱〔kJ/mol〕 |
|
温度と中和熱〔kJ/mol〕 |
||||||||
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HClとNaOHを等濃度で中和(25°C) |
|
0.25mol/lの酸・塩基の中和熱 |
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|
濃度mol/kg |
中和熱 |
濃度mol/kg |
中和熱 |
|
酸 |
塩基 |
0°C |
6°C |
18°C |
32°C |
|
16.390 |
86.32 |
8.993 |
69.56 |
|
HCl |
NaOH |
60.99 |
60.03 |
57.36 |
54.27 |
|
13.689 |
79.94 |
6.989 |
65.73 |
|
HCl |
KOH |
61.52 |
60.54 |
58.30 |
55.03 |
|
12.519 |
77.30 |
4.887 |
62.22 |
|
HNO3 |
NaOH |
|
60.23 |
57.34 |
54.08 |
|
10.988 |
73.87 |
3.014 |
59.62 |
|
HNO3 |
KOH |
|
60.54 |
58.19 |
54.81 |
►生成熱
物質1molを,その成分元素の単体(25°C,105Paで最も安定な同素体)からつくる
場合の反応熱を,特に生成熱という。たとえば,二酸化炭素の生成熱は,次に示し
た反応の反応熱に等しい。
C(黒鉛)+O2(気)=CO2(気)+394kJ
生成熱という概念の最大の利点は,非常にたくさんある熱化学の資料を,化合物
の生成熱という形で整理しておく点にある。任意の反応の反応熱は,その反応に関
与する物質の生成熱からヘスの法則に基づき計算によって簡単に求めることができ
る。すなわち,生成物の生成熱の総和と反応物の生成熱の総和との差が,反応熱に
等しくなる。たとえばCOの燃焼反応の反応熱は,次式で求められる。
2CO+O2=2CO2+Q kJ
Q =2×(CO2の生成熱) −{2×(COの生成熱)十(O2の生成熱)}
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生成熱〔kJ/mol〕25°C ,105Paの生成熱を示す。 |
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物 質 |
生成熱 |
物 質 |
生成熱 |
物 質 |
生成熱 |
|
CO(g)
|
110.58 |
NH3(g)
|
46.11 |
CH4(g)
|
74.4 |
|
CO2(g) |
393.51 |
HNO3(l)
|
174.10 |
C2H6(g) |
83.8 |
|
H2O(g) |
241.82 |
CuO(s) |
157.3 |
C3H8(g) |
104.7 |
|
H2O(l) |
285.83 |
Fe2O3(s) |
824.2 |
C2H4(g) |
−52.5 |
|
NO2(g)
|
−33.18 |
MgO(s) |
601.7 |
C2H2(g) |
−228.2 |
|
SO2(g)
|
296.83 |
KCl(s) |
436.75 |
CH3OH(l) |
239.1 |
|
HCl(g) |
92.31 |
NaCl(s) |
411.15 |
C2H5OH(l) |
277.1 |
►溶解熱
物質が溶媒中に溶けるときに発生または吸収される熱量で,一般に発熱する場合
が多いが,硝酸カリウム,硝酸アンモニウムなどの場合には熱を吸収する。これら
の塩では,水和エネルギーよりも結晶の凝集エネルギーのほうが大きいため吸熱反
応になると考えられる。
溶解熱は,結晶中の原子・分子・イオンなどの間の結合の切断と,水和などの溶
媒和の結果生じる熱なので,広義の反応熱に属するが,もっと限定すれば混合熱の
一種である。溶解に際して,無水物が酸や塩基になるときの発熱は,化学変化に伴
う熱であるし,水和水 (結晶水)が配位して水和物をつくるときの発熱も単純な溶解
熱とはいえないが,普通これらも溶解熱として扱う。
溶解熱は,普通溶質1molを多量の溶媒に溶かし希薄溶液をつくるときの値で示
す。溶媒が少ないときは,希釈熱の分だけ差が生じる。
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溶解熱〔kJ/mol〕 25℃,105Pa で,水への溶解熱 |
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物 質 |
溶解熱
|
物 質
|
溶解熱
|
物 質
|
溶解熱
|
物 質
|
溶解熱
|
|
AgNO3 |
−22.6 |
NaCl |
−3.88 |
NH3(気) |
34.18 |
HF(気) |
61.5 |
|
BaCl2 |
13.4 |
NaNO3 |
−20.5 |
HBr(気) |
85.15 |
HNO3(液) |
33.3 |
|
CaCl2 |
81.3 |
NH4Cl |
−14.8 |
HCl(気) |
74.85 |
H2SO4(液) |
95.28 |
|
CuSO4 |
73.14 |
Ba(OH)2 |
50.6 |
H2S(気) |
19.09 |
エタノール |
10.5 |
|
FeCl3 |
151 |
Ca(OH)2 |
16.74 |
CO2(気) |
20.3 |
酢酸 |
1.67 |
|
KCl |
−17.21 |
KOH |
57.61 |
Cl2(気) |
23.4 |
シュウ酸 |
−2.1 |
|
KNO3 |
−34.9 |
NaOH |
44.52 |
O2(気) |
11.7 |
尿素 |
−15.4 |

