ホーム新編化学I>第3部 無機物質>第2章 金属元素の性質D 遷移元素とその化合物

D 遷移元素とその化合物

 

 

遷移元素

遷移元素の性質

4周期の遷移元素の性質を下表に示した。遷移元素の融点が高く硬いのは,d

道電子を含む多数の電子が金属結合に参加するためと考えられる。

 遷移元素はまた,いくつかの酸化数を示すものが多い。これは,結合に関係する

電子のすべてが,常に使われるわけではないからである。マンガンを例にとれば,

最高7個の電子が結合に関与するが,実際には26個が使われることもあり,

2〜+7の酸化数を示す。

4周期遷移元素の性質

元素

Ca

Sc

Ti

V

Cr

Mn

Fe

Co

Ni

Cu

Zn

融点〔℃〕

839

1541

1660

1890

1857

1244

1535

1495

1453

1083

420

沸点〔℃〕

1484

2830

3290

3380

2670

1962

2750

2870

2910

2570

907

密度g/cm3

1.55

2.99

4.50

6.11

7.19

7.44

7.87

8.9

8.91

8.96

7.13

原子半径

1.97

1.63

1.45

1.31

1.25

1.12

1.24

1.25

1.25

1.28

1.33

M2半径〔Å〕

1.14

---

1.00

0.93

0.87

0.81

0.75

0.79

0.83

0.87

0.88

結晶構造

面立

六最

六最

体立

体立

立方

体立

六最

面立

面立

六最

電気陰性度

1.0

1.3

1.5

1.6

1.6

1.5

1.8

1.8

1.8

1.9

1.6

標準電極電位

2.8

2.0

1.6

1.1

0.9

1.2

0.4

0.3

0.3

0.3

0.8

主な酸化数

2

3

24

25

26

27

24,
6

14

14

13

2

面立は面心立方構造,六最は六方最密構造,体立は体心立方構造

 

 

遷移元素の特色

 これまで触れたことを含めて特色をまとめると,次のようになる。

(1) 周期表の第4周期以後に位置し,311族に属する。

(2) 原子の電子配置は,原子番号の増加につれて,最外殻ではなく内殻のd軌道,

 f軌道に電子が満たされていく。

(3) 一般に密度が大きく,Scを除き重金属である。融点・沸点も高く,融解熱も

 大きい。比較的硬い。

(4) 有色の化合物が多い。

(5) 単体のイオン化傾向は比較的小さく,また反応性も小さい。

(6) 同一元素で,いくつかの酸化数をもつものが多い。

(7) 錯イオンをつくる。

 

 鉄,コバルト,ニッケルの3元素は,よく似ている。単体は強磁性体で,細かい

粉末は水素を吸着する。酸では,2価の陽イオンになり,錯イオンをつくりやすい。

鉄は2価,3価とも安定だが,2価のものは3価に移りやすい。コバルトとニッケル

は,単塩では2価が安定であるが,錯塩では3価が安定となる。

 鉄の単体は,鉄の塩類を電解するか,または純粋な酸化鉄(III)Fe2O3,シュウ酸鉄

(II)FeC2O4を水素気流中で熱すると純鉄が得られる。赤熱した鉄は,水蒸気を分解し

て水素を生じる。

   3Fe4H2OFe3O4H2

 鉄は塩酸,硫酸に溶けるが,濃硝酸には不動態を生じ溶けない。この不動態になっ

た鉄片を硫酸銅溶液中に入れてもその表面に銅が析出しない。鉄は乾いた空気には侵

されないが,水分と二酸化炭素を含む空気中では速やかに酸化される。

 

鉄の化合物

 酸化鉄(III) a 型とg 型があり,aとして天然に赤鉄鉱がある。硝酸塩,シュウ

酸塩,水酸化物などを空気中で焼くとa型が,四酸化三鉄を穏やかに酸化すると

g 型が得られる。色は製法及び処理によって黄赤,赤褐,紫などと変わるが,一

般には赤色である。g 型は600℃でa 型に変わる。密度は製法によって異なり,

5.15.2g/cm3,硬度は5.56.5である。

 強熱すると分解して酸素を放出する。熱すれば水素,一酸化炭素などで還元され

る。酸にはしだいに溶け,鉄(III)塩を生じるが,一度強熱したものは溶けにくい。

 この化合物はべんがらともよばれ,研磨剤,赤色顔料,鉄製造原料になる。

 硫酸鉄(II) 7分子の水和水をもち,緑バンともいわれる。空気中に長く放置す

ると風解し,また酸化されて黄褐色になる。熱すれば,80℃で5分子,100℃で6

分子,300℃で全部の水和水を失い,白色の無水物になる。水溶液はほぼ中性であ

るが,空気で酸化され塩基性硫酸鉄(III)の黄褐色沈殿を生ずる。実験室で使う鉄(II)

塩で,還元剤などの代表例である。

 塩化鉄(III) 黄褐色の潮解性結晶である。融点306℃だが,315℃で分解する。

Fe3は水溶液中では[Fe(H2O)6]3であるが,FeCl3を沸騰水に溶かすと赤褐色の溶

液を生じる。これは加水分解のため,Fe(OH)3nH2Oのコロイドができるためである。

鉄の化合物

化学式

融点〔

水溶性

備   考

FeO

1370

 

Fe2O3

赤褐〜黒

1565

赤鉄鉱

Fe3O4

1538

磁鉄鉱(マグネタイト)

Fe(OH)2

無〜淡緑

分解

空気中で酸化

FeO(OH)

赤,褐

脱水136

針鉄鉱,鱗鉄鉱

FeSO4 · 7H2O

青緑

64

 

FeCl3 · 6H2O

黄褐

36.5

潮解性

Fe(NO3)3 · 9H2O

無〜淡紫

47.2

潮解性

FeS

黒褐

1193

 

Fe(NH4)(SO4)2 · 12H2O

淡紫

3941

鉄ミョウバン

K4[Fe(CN)6] · 3H20

脱水100

黄血塩

K3[Fe(CN)6]

分解

赤血塩

FeK[Fe(CN)6] · nH2O

濃青

分解

立方晶系結晶

K4[Fe(SCN)6] · 4H2O

分解

空気中で酸化

K3[Fe(SCN)6] · 4H2O

深赤

分解

潮解性

 

鉄イオンの反応

 FeSO4 · 7H2Oの水溶液は,[Fe(H2O)6]2が存在するので淡緑色だが,Fe2は酸化さ

れやすいので,しだいに黄色くなる。

   4Fe2O22H2O4Fe34OH

 塩基性にすると,Fe(OH)2の白色沈殿が生じる。これも酸化されて緑色を帯びや

すい。K3[Fe(CN)6]水溶液を加えると,ターンブル青という濃青色沈殿が得られ

る。K4[Fe(CN)6]の水溶液を加えると白色沈殿ができる。この沈殿も酸化されやすく,

実際には青色を帯びる。このようなFe2の酸化を防ぐには,溶液に少量の亜ジチ

オン酸ナトリウム(ハイドロサルファイト)Na2S2O4を加えておくとよい。

 Fe3の水溶液は,[Fe(H2O)6]3を含み淡紫色を示す。しかし,OHClが配位

すると黄色味を帯びる。塩基性にするとFe(OH)3の赤褐色沈殿が生じる。

   Fe33OHFe(OH)3

 チオシアン酸カリウムKSCN水溶液を加えると,血赤色溶液となる。

  [Fe(H2O)6]3nSCN-[Fe(SCN)n(H2O)6n] 3nnH2O

 K4[Fe(CN)6]溶液を加えると,プルシアンブルー(ベルリン青)とよばれる濃青色

沈殿を生じる。また,K3[Fe(CN)6]溶液を加えると褐色溶液となる。

 

実験14 Fe2+Fe3+の反応を調べてみよう

 

 

 銅,銀,金の3元素を銅族元素という。どれも最外殻のs電子1個を失って1

の陽イオンになる。しかし内部のd電子を失うこともあり,銅はCu2,金はAu3

になりやすく,むしろこのほうが安定である。どれも錯イオンをつくりやすく,

[Cu(NH3)4]2[Ag(CN)2]-[AuCl4]-などの例がある。銅(U)イオンは,水溶液中で

[Cu(H2O)]2のアクア錯イオンとなっている。銅(U)イオンの示す青色は,アクア

錯イオンが示す色であり,水を失うと無色になる。

 銅の単体は,展性,延性が大きく,熱・電気の良導体である。酸には溶けにくい

が,希硝酸,濃硝酸,熱濃硫酸のような酸化作用のある酸にはよく溶ける。これら

の反応は,銅がまず酸化されて酸化銅(U)CuOとなり,次いで酸化銅(U)に酸が作

用すると考えると理解しやすい。

   Cu(O)CuO  CuO2HCu2H2O

 銅は,合金として利用されることも多い。

銅の合金と成分〔%〕

成  分

Cu

Zn

Sn

Ni

Mn

Al

黄 銅

7060

3040

青 銅

7090

120

1025

洋 銀

50

25

25

コンスタンタン

60

40

マンガニン

84

4

12

アルミ青銅

8895

512

 

 

銅の電解精錬

粗銅はヤ金銅ともいい,純度が悪く,不純物を除くため電解精錬を行う。約200kg

の粗銅を陽極とし,純銅薄板を陰極として硫酸銅の溶液中で電解する。液温は約

50℃,電流密度約1.5A/cm2,電圧約0.4V程度が適当である。

電解で純銅が得られるのは,銅と不純物の金属とのイオン化傾向の差を利用した

ものである。銅とそれより大きいイオン化傾向の金属は液に溶け出すが,小さい金

(AuAg)は溶けずに陽極下に沈殿する(陽極泥)。液中に溶け出た金属は,イオン

のまま溶液中にあるが(硫酸塩の溶解度が小さいイオンはPbSO4のように沈殿する)

銅のみは陰極に析出する。これが電気銅(純度99.99%以上)である。
 陽極泥は焼いて,金を含む粗銀とする。これを陽極として,陰極に純銀かステン

レス鋼を用い電解する。このときの電解液は,硝酸酸性硝酸銀溶液を用いる。この

ようにして純度99.95%以上の純銀を得る。このときできる陽極泥を焼いて粗金を

得,さらにこれより純金を得る。

 

粗銅,陽極泥,電気銅の成分(wt)の例

元 素

Cu

Au

Ag

Pb

As

Ni

Sb

Se

粗 銅

98.7

99.5

0.0015

0.0073

0.35

0.03

0.02

0.18

0.019

0.26

0.02

0.23

0.014

0.1

0.02

0.07

電気銅

99.99

0.00001

0.001

0.0001

0.0001

0.0001

0.0001

 

陽極泥

脱銅後2.7

1.73

34.3

26

4.5

0.8

9.8

21.4

 

銅の化合物

銅の化合物の性質を下表に示す。

硫酸銅(U)五水和物CuSO45H2O(または[Cu(H2O)4]SO4H2O)は青色結晶で,熱すると

水和水が段階的に失われる。

無水物は白色粉末で,吸湿性が強く,水分を吸収して青色の水和物になる。こ

のため,無水物は微量の水の検出や脱水剤に利用される。水溶液は収れん性と殺菌

作用がある。農薬(ボルドー液など),銅めっき,媒染剤,銅アンモニアレーヨンの

原料,皮なめしなどに用いられる。

 

銅の化合物の性質

化 学 式

融点〔℃〕

水溶性

備   考

Cu2O

1235

赤銅鉱.NH3塩酸に溶解

CuO

1236

酸に溶解

Cu(OH)2

分解(CuO)

NH3KCN水に溶解

CuS

分解220

コベリン.KCN水に溶解

CuSO4 · 5H2O

分解脱水

潮解性,カルカンサイト

CuCl2 · 2H2O

分解200

潮解性,高温でCuCl生成

Cu(NO3)2 · 3H2O

114.5

170℃でHNO3生成

CuCN

  窒素中473

塩酸KCNNH3水に溶解

Cu2CO3

分解

NH3水に溶解

[Cu(NH3)4]SO4 · H2O

青紫

分解150

エタノールに不溶

K3[Cu(CN)4

400

吸湿性

 

銅イオンCu2の反応
塩基性にすると,青〜青白色の水酸化物Cu(OH)2が沈殿する。このとき,長く放

置したり,熱すると黒色の酸化銅CuOを生じる。

   Cu22OH-Cu(OH)2, Cu(OH)2CuOH2O

また,アンモニア水を過剰に加えたときは,Cu(OH)2が溶けて深青色溶液となる。

これはアンミン錯イオンが生じるためである。

   Cu(OH)24NH3[Cu(NH3)4]22OH-

 硫化水素水H2Sを加えると,黒色のCuSを沈殿する。CuSは酸に溶けないが,熱

希硝酸やKCN水溶液には溶ける。

   2CuS9CN-2[Cu(CN)4]3-CNS-S2-

 Cu2水溶液にKCN水溶液を加えると,黄色のCu(CN)2が沈殿するが,これは直ち

(CN)2ガスを失って白色のCuCNの沈殿になる。このCuCNは,過剰のKCNと錯イ

オンをつくって無色の溶液となる。

   Cu22CN- Cu(CN)2  2Cu(CN)22CuCN(CN)2

   CuCN3CN-[Cu(CN)4]3-

 中性のCu2溶液は,K4[Fe(CN)6]溶液を加えると赤褐色沈殿となる。

   2Cu2[Fe(CN)6]4- Cu2[Fe(CN)6]

 

シュバイツァー試薬とキュプラ

1857年,シュバイツァーによりキュプラ(銅アンモニアレーヨン)がつくり出さ

れ,1919年,ベンベルグ社によってキュプラが工業化された。銅(U)イオンのア

ンミン錯体[Cu(NH3)4](OH)2の溶液をシュバイツァー試薬という。90℃に熱した硫

酸銅(U)水溶液に炭酸ナトリウム水溶液を加えてできる沈殿CuSO4 · 3Cu(OH)2

集め,メチルレッドが黄変するまでアンモニア水に溶かし,水酸化ナトリウム水

溶液を加えてつくる。深紫青色。セルロースを溶かす性質がある。実用的には安

定剤としてグルコースを加えることがある。

 この液に木綿リンターあるいは高a木材パルプなどの原料セルロースを溶かし,

さらに水酸化ナトリウム溶液を加えてセルロースを完全に溶かす。この紡糸原液を

凝固浴の水中に繊維状に押し出し,さらに3.57.5%の30℃の硫酸浴中を通し,

脱銅再生してキュプラとする。

 

実験15 Cu2+の反応を調べてみよう

 

 

 天然に遊離銀として存在することもあるが,多くは輝銀鉱Ag2S,輝安銅銀鉱(

成分CuSAg2S)などとして産出する。金属の中で最も熱や電気を伝えやすく,展

性・延性も大きい。化学的に安定で,空気中では酸化されにくい。酸化作用のあ

る濃硝酸や熱濃硫酸には溶ける。

   Ag2HNO3AgNO3H2ONO2

2Ag2H2SO4Ag2SO42H2OSO2

硫化水素H2Sと反応すると,Ag2Sを生じて黒化する。

銀は貴金属であり,装身具や銀器に用いられる他,金との合金などにも用いら
れる。また化合物として,写真感光剤に利用される。

銀の化合物
 硝酸銀AgNO3は,水溶性銀化合物として最も多く利用されている。光が当たる
と分解して銀を遊離するので,保存に注意が必要である。デンプンなどと熱する
とやはり銀が遊離するので,皮膚などを黒くすることがある。

 AgClAgBrAgTは水に不溶性の化合物で,光が当たると分解し銀の微粒子を
生じるので,写真の感光材料に用いられる
(感光性はAgBrが最大)。これらは,チ
オ硫酸ナトリウム,アンモニア,シアン化カリウムに,どれも錯イオンをつくっ

て溶ける。
AgX2Na2S2O34Na[Ag(S2O3)2]3-X-
AgX2NH3→[Ag(NH3)2] X-
AgX2KCN2K[Ag(CN)2]-X-

ハロゲン化銀の溶解性の差異は,アンモニア水によってよく現れる。

溶解性はAgClAgBrAgIであり,AgClはよく溶けるが,AgIはほとんど溶けない。

銀の化合物

化 学 式

融点〔℃〕

水溶性

備   考

Ag20

暗褐

分解200

硝酸NH3水に溶

AgCl

455

光で黒化.NH3KCN水に溶

AgBr

淡黄

432

光で黒化.NH3KCN水に溶

AgI

552

光で黒化.KCNNa2S2O3水,NH3水に溶

Ag2S

825

硝酸硫酸KCN水に溶

Ag2SO4

652

NH3水に溶

AgNO3

212

エタノールに溶.アセトンに難熔

Ag2CrO4

暗赤

NH3KCN

Ag2Cr2O7

分解

NH3KCN水に溶

[Ag(NH3)2]2SO4

正方晶系

K[Ag(CN)2]

エタノールに溶

 

 

銀イオンAgの反応
硝酸銀水溶液中のAgは,次のように反応する。塩基には,Ag2Oとなって沈殿

する。この沈殿は,アンモニア水に溶ける。
   2Ag20H-Ag2OH2O
   Ag2O4NH3H2O2[Ag(NH3)2]20H-

 ハロゲン化物イオンとの反応は,前項目の解説のようになる。

 硫化水素には,Ag2Sとなって沈殿する。Ag2Sは,KCN溶液に溶ける。

   2AgS2- Ag2S

   Ag2S4KCN2[Ag(CN)2]-4KS2-

 KCN溶液には,白色のAgCNとなって沈殿するが,過剰のKCN溶液には溶ける。

   AgCN-AgCN AgCNCN-[Ag(CN)2]-

 K2CrO4またはK2Cr2O7水溶液には,Ag2CrO4となって沈殿する。この沈殿も,

KCN溶液やNH3水に溶ける。

   2AgCrO42- Ag2CrO4

   4AgCr2O72-H2O2Ag2CrO42H

 

 










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